自分は物語を読むとき、主人公には感情移入をしてしまう。
でもそれが、かの悪名高きドイツ第三帝国総統だったら、どうなんだろう。
「アリ」なんだろうか、「ナシ」なんだろうか。
ラヴィ・ティドハー『黒き微睡みの囚人』(竹書房文庫)を読んだとき、そんな感想を持った。
簡単に言うと歴史改変SF。
作者のティドハーはイスラエル出身、イギリス在住の作家。
イスラエルの作家がアドルフ・ヒトラーを主人公に据えた小説を書く。
それだけで浅薄な自分にとって、なにか凄みを感じてしまう。
史実と違い政治闘争に敗れ、イギリスに亡命し私立探偵を営むウルフ(作中での呼び名)。
ある日、依頼に訪れたのはユダヤ人だった。
なかなか飛ばした設定から始まる。そこには権力もカリスマもない一人の中年がいる。
探偵としての活動中も、ひどい目に遭ってばっかり。史実での栄光は微塵もない。
本人も歯噛みしながら、どんどん状況に翻弄されていく。
作中のウルフは、ドイツを手中に収められなかった。
つまり、ポーランド侵攻もホロコーストも行わなかったことになる。
じゃあ、良い奴なのか?
でもユダヤ人を憎悪してる。性格が良くなってるわけでもない。
なんだか問われている。彼をどう見ますか、みたいな。
終盤、ヒトラーの後釜として擁立された人物が出てくるのだが、皮肉が効いてる。
そいつを持ってくるか、て感じ。
結末は、ひとつの救い、というか、フィクションにおける希望、みたいなものを感じた。
こういうものを書けることが、フィクションの価値かもしれない、と。
読み終わって結構経つのに、うまく言語化できてない。
やっぱり読書感想など無理かな、自分。